五年後
古田静雄は白いカジュアルウェアを着て、鈴木音夢の小さな部屋に入った。
ドアを開けるとすぐに、チビちゃんが飛びついてきた。「古田おじさん……」
古田静雄は彼女をひょいと抱き上げた。チビちゃんはだいぶ痩せていた。
でも大きな目をしていて、見ているとキスしたくなるような衝動に駆られた。
鈴木音夢は荷物をまとめていたが、古田静雄が来たのを見て、手を止め、彼にお茶を注いだ。
「音夢、あなたと杏子のパスポートと航空券の手続きは済んだよ。明後日の便で帰国する予定だ」
そう言って、古田静雄は片手でチビちゃんを抱きながら、もう一方の手でポケットから彼女たちのパスポートと航空券を取り出した。
鈴木音夢はそれを受け取り、思わず興奮した。杏子の状態はますます悪くなっていた。
海外での適合率は低く、もう引き延ばすことはできない、帰国しなければならなかった。
この2年間、杏子のために、鈴木音夢は非常に苦労していた。
絶望的な時に、古田静雄が現れた。
彼女は、古田静雄が母娘にとって冬の中の暖かい太陽だと思った。
「古田さん、ありがとう、本当にありがとう」
彼女はパスポートと航空券を触りながら、目が赤くなった。
これは彼女と杏子が長年望んでいた願いが、ついに叶うところだった。
「まだ処理すべき事があるから、君たちと一緒に帰国できない。道中、気をつけてね」
鈴木音夢はうなずいた。「古田さん、本当にどうお礼を言えばいいのか分からないわ。あなたがいてくれて良かった」
「そんなことを言わないで。予定通りなら、2ヶ月後に永崎城に戻るよ。そうしたら、ようやく陽の下で生きられる」
彼の潜入任務はついに終わりに近づき、地元政府との引継ぎ作業だけが残っていた。
「古田おじさん、早く帰ってきてね。おじさんに会えないと、すごく寂しくなるよ」
小さなお姫様は彼の首に腕を回し、思わずキスをした。
古田静雄は彼女の頭を撫でた。「ママの言うことをよく聞くんだよ。おじさんはまた会いに来るからね。じゃあ、音夢、先に行くよ」
母娘は玄関まで見送り、古田静雄の背中が見えなくなるまで見つめていた。
杏子は鈴木音夢の手を引き、彼女を見上げた。「ママ、もうすぐパパに会えるの?」
鈴木音夢はうなずいた。5年が経ち、叔父さんが今どうしているのか分からなかった。