第263章 言い争いになったら彼女にキスする7

音夢のことを思うと、鈴木音夢の涙は止まらなかった。

妊娠がわかった時から、彼女はずっとこの子を守れるか不安だった。

やっと十月十日の妊娠期間を経て、無事に子供を産んだのに、杏子はこんな重い病気にかかってしまった。

彼女は考えたくもなかった、もし卓田家が杏子を返してくれなかったら、自分はどうなるのだろうか?

彼女には卓田家と争う力もない。杏子が彼女と一緒にいれば、苦労するだけだ。

卓田家なら、最高の世話を受けられる。健康に成長できる。

恋しさの苦しみよりも、彼女は杏子を失うことをもっと恐れていた。

この瞬間、杏子を失うかもしれないと思うと、鈴木音夢の心は空っぽになった。

彼女はソファに一時間以上座り、頭の中でもずっと考え続けていた。

十一時頃になって、彼女は浴室に入った。

生活はまだ続いていく。今は杏子に良い生活を与える力がないかもしれない。

でも、彼女は手足が不自由なわけではない。彼女だってお金を稼ぐことができる。

もし卓田家が杏子を返してくれるなら、彼女も杏子に安定した日々を過ごさせたい。

それに、今の環境がどんなに厳しくても、海外にいた時よりはましだ。

彼女には弟がいる。弟は決して彼女を見捨てない。彼らは最も近い家族だ。

世介も頑張っている。彼は言った、本当に彼らのものになる家を買いたいと。

姉弟が心を一つにすれば、必ず実現できる。

卓田家では、卓田越彦が険しい顔で帰ってきた。

卓田正修は後ろを見たが、鈴木音夢の姿はなかった。

彼は眉をひそめて言った。「音夢はなぜ帰ってこないんだ?杏子は今夜、もう何十回も『ママはいつ帰ってくるの?』と聞いている。やっと寝かしつけたところだ。」

卓田越彦は何も言わず、そのまま階段を上がった。

その表情は、まるで何百億も借りがあるかのようだった。

卓田正修は眉間をさすりながら、このバカ息子め、きっと彼女を連れ戻せなかったんだな。

卓田正修は腹を立てた。「卓田越彦、言っておくが、一人の女性すら上手く扱えないなんて、お前が俺の息子だとは言わせない。」

卓田越彦は階段の途中で、卓田正修の言葉を聞いて足を止めた。

彼は振り返り、冷たく言った。「認めなくてもいいさ。まるで俺がお前の息子でいたいみたいに言うな。」

そう言うと、卓田正修がどれほど怒ろうと気にせず、杏子の部屋に入った。