第301章 恋愛、公平な競争5

卓田礼奈は入り口に立ち、中に入る勇気がなかった。「あの、私...先に行きます。」

次の瞬間、卓田礼奈は身を翻し、冷静に歩き去った。

彼女の姿が彼らの視界から消えた時、彼女はすぐに走り出した。

彼女は分かっていた。今自分が去れば、古田静美の思惑通りになってしまうことを。

公平に競争すると約束したのに、彼女は古田静美のようにはできなかった。

鈴木世介はドライバーを持つ手を止め、眉をわずかに寄せた。

古田静美はもう一つ取り出して、「世介、もう一つ食べる?」

「いらない。少し離れて座って、光を遮らないで。」

鈴木世介は早く古田静美のパソコンを修理して終わらせたかった。30分後、無事に起動した。

「世介、すごいね。外のパソコン修理屋さんより腕がいいわ。お礼に夕食をご馳走するわ、どう?」

鈴木世介は道具を片付けながら時間を確認した。「いいよ。君のお兄さんは以前、私の姉を助けてくれたから、パソコンの修理なんて小さなことだよ。もう遅いから、早く帰った方がいいよ。」

古田静美は彼がパソコンを修理したのは単に兄のためだと聞いて、少し落胆した。

彼女は唇を噛み、しつこく迫るタイプではなかった。「わかったわ、ありがとう。じゃあ先に行くね。」

「さようなら。」

鈴木世介は彼女を玄関まで見送り、トイレに入って手を洗った。

彼は小さくため息をつき、我慢できずに携帯を取り出して、ある番号に電話をかけた。

電話はしばらくしてから繋がり、騒がしい音が聞こえてきた。

鈴木世介は眉をひそめた。「卓田礼奈、どこにいるんだ?」

卓田礼奈はバーで友人たちと飲んでいた。「私がどこにいようと、あなたに何の関係があるの?」

そう言うと、卓田礼奈はすぐに電話を切った。

これは彼女が初めて鈴木世介の電話をこんなに早く切った時だった。以前なら彼から電話がかかってくるだけで半日は嬉しかったのに。

時々彼女が彼に電話をかけて、鈴木世介が出てくれれば、24時間でも話していたいくらいだった。

今は、彼の声を聞きたくなかった。

鈴木世介は電話から聞こえるツーツーという音を見つめ、眉をひそめた。彼女が電話を切ったのか?

しかも、電話の向こうは騒がしく、バーにいるように聞こえた。

女の子一人でバーに行くなんて、何事だ?