鈴木音夢は平村さんを見ると、急いで言った。「平村さん、杏子がいなくなったの。さっき清掃のおばさんが私の服を汚してしまって、ちょっと洗いに行ったの。数分後に戻ってきたら、杏子が見つからなくなっていたわ。店員さんによると、清掃のおばさんが杏子を連れて私を探しに行ったらしいけど、誰も見かけていないのよ」
平村さんはそれを聞くと、「若奥様、ご心配なく。お嬢様はそう遠くには行っていないはずです。すぐにこのショッピングモールを封鎖します」
卓田家の勢力をもってすれば、繁華なショッピングモールでも、封鎖しようと思えばすぐにできる。
杏子がこのモールから出ていなければ、必ず見つけられるはずだ。
その後、モール内の放送が流れた。もし杏子が自分で歩き回っているだけなら、放送を聞いて、すぐに現れるはずだ。
数分後、何の動きもなかった。
鈴木音夢は急いで卓田越彦に電話をかけた。この時、卓田越彦は会議室で外国のビジネスマンと交渉中だった。
電話を取ったのは馬場嘉哉だった。若奥様からの電話は必ず取らなければならない。
電話が繋がるとすぐに、馬場嘉哉は若奥様の緊張した声を聞いた。
「若奥様、旦那様は今会議中です。何かありましたか?慌てないで、ゆっくり話してください」
鈴木音夢はもう焦りのあまり、言葉がうまく出てこなかった。電話は平村さんに渡され、彼が直接状況を説明した。
馬場嘉哉は話を聞き終わると、眉をさらに深くしかめた。「平村さん、すぐに監視室に行って、監視カメラの映像を確認してください。すぐに人を派遣して捜索します」
事態は重大で、馬場嘉哉は電話を持ったまま会議室に入った。
提携案件の交渉がちょうど重要な段階にあったとき、馬場嘉哉は卓田越彦の耳元で数言葉を囁いた。
外国のビジネスマンたちは卓田越彦の表情が明らかに沈んだのを見て、その場の雰囲気は一気に数度下がったようだった。
卓田越彦は立ち上がり、外国人たちの表情など気にせず、ただ一言残した:交渉は延期!
川原秘書はこの様子を見て、会社に何か大きな問題が起きたのかと思った。
彼女は思わず馬場嘉哉を引き止めた。「馬場特別補佐、この外国のビジネスマンたちはどうしましょう?」
「とりあえず食事と飲み物でもてなして、畑野部長に来てもらって接待してもらいなさい。彼らが待てないなら、それも仕方ないことだ」