杏子は大きく息を切らしながら、後ろから物音が聞こえてきた。「お兄ちゃん、助けて!」
少年は一瞬躊躇したが、手に持っていた絵筆を投げ捨て、杏子の手を引いた。冷静かつ落ち着いた様子で一言だけ言った。「行くぞ!」
鈴木成典はすでにそれらの人々に怯えて判断力を失っていた。両足はほとんど走り疲れ、無意識のうちに七、八歳ほどの少年についていった。
「ここに枯れ井戸がある。飛び込め」
そう言うと、少年は率先して飛び込んだ。鈴木成典はチビちゃんを抱き上げ、少年が下で受け止めた。
三人が井戸に飛び込んだ直後、ピーターが人を連れて駆け込んできた。
一行が入ってきたが、人影すら見えなかった。
ピーターは海辺に置かれた描きかけの絵を見た。彼は指でそれに触れ、絵の具がまだ乾いていないことに気づいた。