第508章 身世の秘密17

鈴木音夢は今、とても複雑な気持ちだった。まさか事態がこうなるとは思ってもみなかった。

彼女は包丁を握りしめ、少し動かした。目には怒りの色が浮かんでいる。「話すの?話さないの?」

「音夢、話す...全部話すから、まずはその包丁を下ろしてくれ。」

鈴木音夢は立ち上がった。鈴木国彦は片足が不自由になっていたし、立林絹子のことも、音夢は恐れていなかった。

「あなたのお母さんはその時、玉の飾りを持って人を探しに来たんだ。でも彼女は具体的な名前も住所も知らなかった。ただその男が豊田さんと呼ばれていることだけ知っていた。今は古代じゃないんだから、玉の飾りを持っているだけで身分を証明できるわけじゃない。私が思うに、きっとその男は彼女を騙したんだ。だから本当の名前すら教えなかった。暁美はとても純粋だったから、きっと騙されたんだよ。」

「その玉の飾りは?」

鈴木国彦はためらい、彼女の手にある包丁を見て、思わず唾を飲み込んだ。

「その玉の飾りは質に入れたんだ。」

この瞬間、彼は絶対に音夢に言えなかった。あの玉の飾りがそれほど価値があるものだったこと、そして先日、数千万円かけて買い戻したことを。

「音夢、私はその時本当にお金がなかったんだ。お父さんを責めないでくれ。暁美が亡くなったとしても、私はお前をこれだけ長く育ててきたんだ。功績はなくても苦労はしたんだよ。」

「じゃあ、私の母はどこから来たの?」

鈴木音夢は自分の外祖父や外祖母のことを全く知らなかった。母のすべての親戚について、今考えてみると、本当に何も知らなかった。

「それは本当に分からないんだ。お前のお母さんが永崎城に来た時、何も分かっていなかった。私は何度も聞いたけど、彼女は自分がどこから来たのか言おうとしなかった。音夢、私が知っているのはこれだけだ。本当に嘘はついていない。姉弟二人をこれだけ長く育ててきたことを考えて、許してくれ。」

鈴木音夢は包丁を投げ捨て、呆然としてその家を後にした。

母のことを思い出すと、彼女の記憶はすでに少しぼやけていた。彼女の記憶の中で、母はとても優しい人だった。

あの男、いわゆる彼女の実の父親は、自分のフルネームすら知らなかったなんて。

鈴木音夢自身も婚前妊娠をしていた。海外にいた時、どれほど大変だったか、彼女は知っていた。