第521章 身世の秘密30

卓田正修は眉をひそめ、時には互角の相手に出会えることも、なかなか難しいことだと思った。

「もう一局……」

豊田景明は横目で鈴木音夢を見て、自分のイメージを挽回しようと決めた。

鈴木音夢は二局の対局を見ていたが、どちらも豊田景明が辛勝していた。

卓田正修はとても悔しそうだったが、豊田景明は碁石を置きながら、「修一さん、焦らなくても大丈夫ですよ。今日はこれまでにして、次回また雪辱の機会を差し上げましょう」と言った。

卓田正修は時間を見て、仕方なく諦め、「今夜はうちに泊まって、明日続きをやらないか」と提案した。

豊田景明は食事にはあまり好き嫌いがなかったが、宿泊に関しては自分の家で寝るのが好きだった。

「修一さん、ご親切にありがとう。今夜のおもてなしに感謝します。今度河津市に来られたら、必ずお返しさせていただきますよ」

卓田正修はそう言われ、対局に負けて悔しい気持ちはあったものの、

これからは碁の腕を競える友人が増えたと思うと、悪くないと感じた。

豊田景明と陽川恵美を見送った後、鈴木音夢も少し疲れていた。杏子をお風呂に入れた後、ちょうど卓田越彦から電話がかかってきた。

鈴木音夢はソファに半分横になりながら、「ダーリン……」と言った。

卓田越彦は彼女の声を聞いて、少し疲れているようだと感じ、思わず心配になった。「音夢、今日は何をしていたの?疲れているの?」

鈴木音夢は彼が出張して数日経っていることを考えた。今回の提携案件はまだ細部が決まっていないため、卓田越彦はまだ帰れなかった。

彼の声を聞きながら、鈴木音夢はうなずいた。「ダーリン、ちょっと疲れたわ。あなたがここにいてくれたらいいのに」

卓田越彦はそう聞いて、心が急いた。すぐにでも彼女のそばに飛んで行きたかった。

「ごめんね、おそらく明後日にならないと帰れないんだ」

「実は大丈夫なんだけど、ただ…ただね……」

卓田越彦は電話越しに、彼女のもごもごした声を聞いて、体調が悪いのではないかと思った。

「チビ、どうしたの?怖がらせないでよ、何かあったら言ってごらん」

鈴木音夢は電話を握りしめ、軽く唇を噛んで、「ただ…ただ、あなたが恋しくて……」と言った。

蚊の鳴くような声だったが、敏感な卓田様は、キーワードを見事にキャッチした。