卓田越彦は鈴木音夢の眉間がずっと軽く寄っているのを見て、「転院できないか?卓田病院に移せば、医療設備がいい」と言った。
土屋先生は卓田越彦を一瞥し、首を振った。「胃からの出血がやっと止まったところで、動かすことはできません。今回はこんなに酒を飲んで胃出血を起こすなんて、豊田さんは命知らずですね」
豊田景明が集中治療室に入り、卓田越彦は鈴木音夢の顔色があまり良くないのを見て、「妻、先に帰ろう。祐助、何かあったらすぐに電話してくれ」
「うん、音夢、心配しないで。僕がここでお父さんを見ているから、きっと大丈夫だよ」
鈴木音夢は何も言わず、卓田越彦と一緒に家に帰った。
道中、鈴木音夢は何も言わず、ただ気持ちがとても重く感じていた。
家に着くと、彼女は林柳美に挨拶した後、そのまま二階に上がった。
林柳美は我慢できず、小声で尋ねた。「越彦、音夢は大丈夫?」
「豊田景明が少し具合が悪くて病院にいるんだ。彼女は大丈夫だよ、先に上がるね」
なるほど、豊田景明のことか。豊田景明はようやく音夢が自分の娘だと知ったばかりだ。
これほど長い間姿を現さず、今になって音夢に父親と呼ばせるのは、確かに少し無理があるだろう。
林柳美はため息をついた。今、豊田景明が病院にいて、音夢の心中は、きっと穏やかではないだろう。
卓田越彦が二階に上がると、鈴木音夢が林暁美の写真を手に取り、見入っているのが目に入った。
彼は近づき、彼女の隣に座った。「妻、豊田景明は大丈夫だよ。おそらく当時は、本当にやむを得ない理由があったんだと思う。彼は情けのない人ではないと思うよ」
「もし昨日彼が私を訪ねてきた時、私が会っていたら、今日のようなことは起きなかったのかな?」
鈴木音夢はそう考えると、急に自分がひどい人間に思えてきた。
陽川恵美によれば、当時豊田景明は記憶喪失で、お母さんを見捨てたわけではないという。
「妻、自分を責めないで。豊田景明もきっとあなたに自分を責めてほしくないはずだよ」
その夜、鈴木音夢はずっと落ち着かない眠りについていた。
杏子は本来なら彼女にお話を読んでもらいたかったが、自分でおとなしく寝に行った。
深夜、音夢は三時過ぎに夢を見た。
これまで写真の中でしか見ることのできなかった母親が、生き生きと目の前に現れた。