第561章 豊田家のお嬢様26

卓田越彦は指先で彼女の顔を優しく撫で、彼女に自分を見るよう促した。

鈴木音夢の視線がゆっくりと焦点を合わせ、卓田越彦の顔を見た。

彼女は彼の手をしっかりと握り、「おじさま、母さんの夢を見たの。どれだけ追いかけても追いつけなかった」

卓田越彦は彼女を抱きしめ、肩を優しく叩いた。「大丈夫だよ、大丈夫、泣かないで…」

「母さんが、父さんが私を探しに来たって言ったの。それって、豊田景明と認め合うべきだって意味かな?母さんは彼を恨んでないの?」

もしあの時、母が妊娠していなかったら、今頃彼女は北海道で元気に生きていたかもしれない。

「妻よ、陽川恵美の言葉は本当かもしれない。豊田景明が目を覚ましたら、彼の説明を聞いて、それから彼を父親として認めるかどうか決めればいい。どちらを選んでも、夫はお前の決断を支持するよ」

鈴木音夢はうなずき、卓田越彦の腰に腕を回した。「あなた、今病院に行って彼を見たいの。このまま死んでしまうのが怖いの」

卓田越彦は時間を確認した。彼女を連れて行かなければ、夜も安心して眠れないだろう。

「わかった、連れて行くよ。まず服を着替えて」

今は秋に入り、気温が下がっていたので、夜外出するには上着が必要だった。

彼女の体はまだ完全に回復していないので、熱や風邪をひいたら厄介だ。

服を着替えると、卓田越彦は彼女を連れて階下へ降りた。「ここで待っていて、車を持ってくるから」

鈴木音夢はうなずいた。真夜中に病院へ行って豊田景明を見たいと言っただけなのに。

卓田越彦は二つ返事で、彼女の服を取り出して着替えさせ、まるで風邪をひかせないように気を配っていた。

しばらくして、卓田越彦は車庫から車を出してきた。

鈴木音夢は助手席のドアを開けて座った。

豊田景明は今のところ転院できず、卓田家から病院まで、卓田越彦は30分かけて車を走らせた。

豊田祐助と陽川恵美はまだ集中治療室の外で夜を明かしていて、この時間に鈴木音夢が現れたことに驚いた様子だった。

「音夢、どうしてここに?」

豊田祐助は立ち上がり、彼女に近づいた。

「眠れなくて、様子を見に来たの。彼は…どう?」

「状態はあまり良くない。2時間前に一度中に入って話しかけたけど、まったく反応がなかった」

今回は以前の状況と違い、豊田祐助も内心不安を感じていた。