第26章 お願いだから、ダメなの?

彼女は階下に行くと、窓際に座り、頻繁に時間を確認している安藤国彦の姿がすぐに目に入った。彼女はドアを押し開けて中に入った。

安藤国彦は安藤凪を見ると、興奮して立ち上がった。

「凪ちゃん、来てくれたんだね。」

安藤凪はうなずき、安藤国彦の前に座ると、すぐに尋ねた。

「株式譲渡書類は準備できましたか?」

安藤国彦は背後に用意していた契約書を取り出した。

彼が安藤凪に渡す時、心の中で少し不思議に思い、思わず遠回しに聞いた。「凪ちゃん、どうしてそんなに急いでるの?」

彼はもともと今週、安藤凪が家に食事に来た時に株式譲渡の契約について話すつもりだったが、彼女が今日自分を呼び出すとは。先ほど電話した時、興奮のあまりすぐに承諾したが、考えてみると何かがおかしいと感じた。

この契約書は、彼が急いで準備したものだった。

安藤凪の表情がわずかに変わり、手を伸ばして安藤国彦が準備した契約書を取った。

彼女はページをめくりながら、落ち着いたふりをして言った。

「正直に言いますが、この株式は私が欲しいわけではないんです。」

安藤凪のこの言葉は一見何も答えていないようだが、よく考えれば彼女は全てを語ったも同然だった。

安藤国彦は少し考えて、安藤凪の言葉の意味を理解した。

彼女が欲しいのではないなら、福井斗真が欲しいということか?

安藤国彦は福井斗真が物事を常に気まぐれに行い、人に先を読ませないことを思い出した。そしてちょうどその時、彼の携帯電話が鳴り、福井氏から振り込まれた3000万円を見て、ようやく安心した。

全て合点がいった。おそらく福井社長が安藤凪を通じて、安藤家の株式の一部を買収したいだけなのだろう。

そうであれば、今後福井氏は安藤家の後ろ盾になる!

そうなれば福井氏にしっかりとくっついていれば、おこぼれだけでも十分満腹になれるだろう!

そう考えると、彼の顔の笑みはさらに広がった。

「急がなくていいよ、ゆっくり契約書を見てくれ。」

安藤国彦の反応は安藤凪の予想通りだった。だからこそ彼女はわざと福井斗真からお金を借りたのだ。目的は虎の威を借りること。安藤国彦と安藤羽音が気づいた時には、安藤家はすでに彼女のものになっているだろう。

安藤凪はこの契約書に問題がないことを慎重に確認した後、安藤国彦と株式譲渡契約を締結した。