第76章 バカだから、あなたに助けてもらうの

久保輝美の胸の中の怒りは発散する場所がなかった。

彼女は帰る時、発散するかのように客間の脇にある棚を強く蹴ってから立ち去った。

鈴木湊と久保輝美の二人は車でここを離れた。

二人とも気づかなかった。

さっき久保輝美が蹴ったせいで、棚の上で燃えていたアロマキャンドルが倒れ、丸いキャンドルが棚からドンと床に転がり落ち、真っ赤な炎がテーブル脇のカーペットに燃え移り、カーペットが少しずつ炎に侵食され、もうもうと煙を上げ始めた。

幸い近くを通りかかった人が、家の窓から異常な黒煙が出ているのを見て、すぐに119番に通報した。

一方、高橋鐘一は安藤凪の家が火事になったという知らせをいち早く受け、急いでオフィスに駆け込んだ。「福井社長、奥様の家が火事です。奥様はまだ家の中にいて出てきていないそうです。」