安藤凪が再び福井斗真を見たとき、彼女は心の壁を少し下げていた。
「あなたの言うことにも一理あるわ。でも、私はまだ少し時間が必要よ」
「ゆっくり考えていいよ。僕の邪魔にはならないから」
福井斗真は一見引き下がったように見えたが、実際には相変わらず自分の思い通りに行動していた。
安藤凪は、福井斗真が一度決心したことを変えるのは難しいことを知っていたので、それ以上何も言わなかった。
その夜、高橋鐘一は申し訳なさそうな顔で安藤凪を見た。
「奥様、この数日間は社長の代わりに仕事上の問題を処理しなければならないので、病院で社長の付き添いをお願いできますでしょうか」
安藤凪は深く考えずに快く承諾した。
結局、福井斗真は彼女を救うために怪我をしたのだから、彼女が付き添うのは当然のことだった。しかし高橋鐘一が去った後、振り返ると福井斗真の口元にまだ隠しきれていない笑みを見て、何か違和感を覚えた。
高橋鐘一が付き添えないとしても、専門のスタッフがいるはずだ。
安藤凪は福井斗真と高橋鐘一に騙されたような気がした。
でも、福井斗真は自分の命の恩人なのだから仕方ない。
そう思うと、安藤凪は文句を言わずに付き添うことにした。彼女は安藤家の問題を後回しにしたが、幸い数日前に安藤家を整理したばかりだったので、しばらくは大きな問題は起きないだろう。
しかし、その日の夜、問題が次々と発生した。
福井斗真は大きな寝間着を着て、どうしても入浴したいと言い張った。
病院のVIP個室には確かに入浴設備があったが、福井斗真の背中の傷は水に触れることができず、入浴は不可能だった。
安藤凪は辛抱強く説得した。
「傷が治ってから入浴しましょう」
「傷が治つ頃には、体が臭くなってるよ」
「それなら…」福井斗真の言うことにも一理あり、安藤凪は2秒ほど迷った後、歯を食いしばって、覚悟を決めたように言った。「体を拭いてあげましょうか」
「いいね」福井斗真は眉を上げ、すぐに同意した。
安藤凪は一瞬固まった。彼がこの言葉を待っていたような気がしたが、一度言ってしまった言葉は水をこぼしたようなもので、取り戻せない。
彼女は仕方なく湯を張ったたらいを椅子の上に置き、タオルを湿らせた。振り返ると、福井斗真が熱い視線で彼女を見つめており、その視線に彼女は少し居心地悪さを感じた。