安藤凪は結局、高橋雅子の説得に負けて行くことにした。
彼女は冷蔵庫の前に歩み寄り、ドアを開けると、その場に立ち尽くした。冷蔵庫の中に冷水などあるはずもなく、両開きの冷蔵庫には様々な花が詰め込まれ、中央にはアイスクリームケーキが置かれていた。そのケーキの上には小さな箱が乗せられていた。
「凪ちゃん、お誕生日おめでとう」高橋雅子は安藤凪に続いて下りてきた。彼女は両腕を胸の前で組み、ドア枠に寄りかかりながら、にこやかに彼女を見つめていた。
安藤凪は心から感動した。
彼女は振り返り、目尻を赤くしながら高橋雅子を見つめ、声を震わせて言った。「雅子、ありがとう。私の誕生日を覚えていてくれたなんて思わなかった」
この世界には、自分のことを覚えていて、気にかけてくれる人がまだまだいるのだ。
「当たり前よ。でも、帰ってくるのが遅すぎたから、簡単にケーキを食べるだけになっちゃったわ。早く私からのプレゼントを見てみて、私がデザインしたのよ」
安藤凪は高橋雅子の促しに従って小箱を開けた。中には一つのチューリップのブローチが入っていた。チューリップの花芯は黄色い宝石で飾られており、安藤凪はとても気に入り、すぐにそれを身につけた。
「さあ、ケーキを食べて願い事をしましょう。キャンドルを立てるわ」高橋雅子は手を叩き、冷蔵庫からアイスクリームケーキを取り出し、楽しそうにキャンドルを立てた。キャンドルに火をつけた後、電気を消して手拍子をしながら誕生日の歌を歌い始めた。単純な誕生日の歌なのに、高橋雅子が歌うとどこかで音程がずれてしまい、安藤凪は思わず笑い出してしまった。
安藤凪は両手を合わせ、願い事をした後、キャンドルを吹き消した。
夜遅かったため、二人は少しだけケーキを食べた。
その後、安藤凪と高橋雅子は眠りについた。
翌朝目覚めると、寝るのが遅かったせいで、安藤凪の目の下には明らかなクマができていた。どれだけファンデーションを塗っても隠せず、最後には諦めて、そのまま会社に行った。会社の社員たちはそれを見て、安藤凪が昨夜福井社長と二人で...遅くまで過ごしたせいで、クマができたのだと勘違いした。
素敵な誤解が、こうして始まった。