安藤凪は体を起こし、携帯を取り出して連絡先を開いた。しかし、福井斗真の名前を見つけると、指先が宙に浮いたまま、なかなか押せなかった。心に溜まっていた勇気が、穴が開いたように消えていった。
もし...もし福井斗真が本当に自分に会いたくないとしたら、電話さえ取りたくないとしたら、どうしよう。今電話をかければ自ら恥をかくだけではないか。安藤凪が迷っているとき、隣にいた高橋雅子が見かねて、彼女の手を押さえ、福井斗真と登録されている番号を押した。
「雅子!」安藤凪は顔色を変え、驚いて犯人を見た。
高橋雅子はにやりと笑い、「何事も、自分で確かめてみないと納得できないでしょ。勇気を出して、状況はあなたが思うほど悪くないかもしれないわ」
安藤凪の心は乱れていた。
何か言おうとした時、突然電話が繋がり、向こうから福井斗真の馴染みのある声が聞こえた。「凪ちゃん」