第192章 出発

安藤凪は言葉を詰まらせ、心の中ですでに天国にいる母親に謝罪した。母の心血を売ることになるが、彼女は今の決断こそが母の心血に対する最後の敬意だと理解していた。

高橋雅子は安藤凪がポルトガルに行くという決断を聞いて、一瞬驚いた。

「場所を変えて気分転換するのは確かにいいけど、安藤家の株式はあなたの後ろ盾よ。こんな風に軽々しく売ってしまうのはもったいないんじゃない?私たちが持っていても何も問題ないわ。あなたが管理する時間がないなら、私が代わりに管理できるわ」

高橋雅子はまだ彼女に衝動的な行動を取らないよう諭していた。

しかし安藤凪の決意は固かった。

「いいの、今は福井斗真は私のことを覚えていないし、安藤家の現在の顧客の大半は福井氏からの流れてきたものよ。だから安藤家は今の規模になれた。福井氏が安藤家を支援しなくなれば、すぐに没落するわけではないけど、確実に下り坂になるわ。私はもう管理する気力もないし、それに、あなたもポルトガルに連れて行くつもりよ。暇なときに話し相手になってくれるし、これでいいの。もう惜しむものなんてないわ」