安藤凪と高橋鐘一の二人が病院に着いた時、福井斗真はまだ救急処置室から出てきていなかった。救急処置室の前には多くの人が立っており、みな福井氏の株主たちだった。
安藤凪は救急処置中を示す赤いランプを見て、胸がざわめいた。
彼女は知っていた。駆けつけてきた株主たちの多くは福井斗真の状態を見定めるためにいるのであって、彼らは福井斗真を心配しているのではなく、自分たちの利益だけを気にしているのだと。
彼女は自分を落ち着かせようと努めた。
「事故はいったいどうなったの?」
安藤凪は目尻を赤くしながら、自分に一番近い株主に尋ねた。
彼女の片側に垂れた、わずかに震える手が、今の彼女の心の動揺を物語っていた。
株主たちは顔を見合わせ、首を振った。
「詳しい状況はまだよくわかりません。ただ福井社長が田中家と契約を結んだ後、帰る途中で事故に遭ったということだけです。事故なのか、それとも...まあ、警察はすでに現場検証をしています。」
安藤凪は深く息を吸い込み、軽く目を閉じてからゆっくりと開いた。
彼女はそれ以上質問せず、頭を上げて救急処置室の赤いランプをじっと見つめた。普段は神仏を信じない彼女だが、この瞬間、菩薩様が現れて福井斗真の無事を守ってくれることを切に願った。
時間はこの時、極めて緩やかに流れていた。
安藤凪の心の中の混乱した感情は、なかなか抑えられなかった。
彼女は救急処置室の前で行ったり来たりし、静かな廊下では靴と床が擦れる音だけが聞こえていた。
高橋鐘一は心の中で福井斗真を心配しながらも、安藤凪に注意を払っていた。彼女は今妊娠中で、大喜びも大悲しみもできない時期だった。夫人のお腹の中には福井社長唯一の血筋がいるのだから。
「奥様、少し座って休まれては?」
彼は直接安藤凪の側に行き、声を低くして尋ねた。
安藤凪は首を振った。彼女の心は今、福井斗真でいっぱいだった。
30分後、救急処置室のドアが内側から開かれ、安藤凪の心は引き締まり、前にいた株主を押しのけて中に飛び込んだ。
彼女は慌てて医師の白衣をつかみ、明らかに震える声で尋ねた。
「先生、彼はどうですか?」
「そうです、先生、福井社長はどうなりましたか?」
傍らの株主たちも続けて尋ねた。