その時、福井斗真のオフィスにて。
高橋雅子は興味津々に尋ねた。「福井社長、凪ちゃん、昨日言っていた私に用意してくれた仕事って何?あの、イケメンに会える仕事だって。」
安藤凪は軽く咳をして、戦術的に水を飲んだ。
福井斗真は両手を机に置き、落ち着いた様子で話し始めた。
「最近設立されたばかりの小さなチームなんだ。スペインとの貿易案件があって、先方と連携する必要がある。君にぴったりの仕事だと思う。そのチームのリーダーは若いけどね。」
「大丈夫です。若くても優秀なんですね。そのチームリーダーって、昨日福井社長が言っていたイケメンですか?」高橋雅子は福井斗真の言葉の罠に全く気づかず、正々堂々と言った。
「雅子、あなた自分より年下は好きじゃないって言ってなかった?」
今度は安藤凪が驚く番だった。
高橋雅子は鼻をこすり、少し恥ずかしそうに言った。
「凪ちゃん、知らないでしょうけど、最近スペインでは年下の可愛い系の男性が流行ってるの。だから私も試してみたいなって。それに、ただ聞いただけよ。まだ何も決まってないし、上司が誰なのか知っておくのは当然でしょ。」
可愛い系の年下男子……安藤凪は弟の姿を思い浮かべた。うーん、ワイルドな感じの方が近いかも。彼女は少し良心の呵責を感じたが、福井斗真は平然と言った。「ああ、昨日言ったイケメンだよ。彼のチームのオフィスは12階にある。ちょうどいい、君たちは知り合いだから、一緒に仕事をすれば彼も君の面倒を見てくれるだろう。」
「いい……」高橋雅子は「いい」という言葉を口にした途端、はっとした。自分が将来の上司と知り合いだなんて、あり得ない。彼女は横浜に戻ってきたばかりで、若くて有能で、しかも福井グループで働いているプロジェクトチームのリーダーなど知るはずがない。
待てよ!高橋雅子の頭にある人物の姿がよぎった。彼女はマグカップに顔を埋めそうになっている安藤凪をちらりと見た。すべての推測がこの瞬間、証明するまでもなく答えが出たようだった。彼女の口角が少し引きつった。「もしかして、そのリーダーは安藤玄ってこと?」
安藤凪と福井斗真は目を合わせたが、否定はしなかった。