362章 一波が収まらぬうちに次の波が来る

福井斗真は片手で安藤凪の胸元に垂れた黒髪を軽く弄びながら、田中雅蘭について冷ややかに嗤った。

「安藤玄の生配信の後、田中雅蘭は街中で指さされる存在になった。それに加えて、彼女は悪意を持って同情を買い、かなりの金を集めたが、違法な資金調達として裁判所に訴えられた。その日の夜、彼女は一人で逃げ出した。息子さえも連れていかなかった。今でもどこに隠れているのか分からない」

安藤凪は雅蘭が逃げたと聞いて、少し驚いた。

「田中雅蘭は息子をとても可愛がっていたはずなのに、逃げる時に渡辺天宝を連れていかなかったなんて。まったく、あの性格の天宝は、父も母もいなくなって苦労するでしょうね」

彼女はそう言いながらも、その口調は極めて冷淡だった。

渡辺天宝はまだ幼いながらも、両親の影響で小さな暴君のような性格になっていた。わがままで横暴な性格で、さらに安藤玄に対する当然という態度。安藤凪としては、天宝は誰にも守られない状況の方が、むしろ良くなるかもしれないと思っていた。

福井斗真は軽く首を振った。「あの手の人間は利己主義者だ。それに当時の状況では、彼女が天宝を連れて行っても、村にいるよりも良い生活を与えられるとは限らなかった」

「確かに」安藤凪は少し考えてから、田中雅蘭のことをそれほど気にしていないようだった。雅蘭のことは頭から追い出した。結局、安藤凪は、彼女たちが今後二度と雅蘭と関わることはないだろうと思っていた。

彼女が知らなかったのは、田中雅蘭が闇のタクシーで横浜市にやって来ていたことだ。さらに彼女の出現が、安藤凪に小さくない危機をもたらすことになるとは。

……

この時、安藤玄はネット上の動向を注視していた。北村グループの株価が次々と下落しているのを見て、彼はある人物に連絡を取り、手元に持っていた動画を公開するよう指示した。北村グループはすでに注目の的だったため、「北村グループ」という言葉が付いた動画は、すべての野次馬の目を引くことに成功した。

動画の中では、中年男性と若くて美しい女性が熱烈にキスをしていた。どんな時代でも、ゴシップは人間の本性だ。