「そんな必要はないの?凪ちゃん、どうやら本当に私に見せたくないようね。もしかして、この中に何か人に見せられないことでもあるの?」
福井斗真の声色が急に冷たくなった。彼は目を細めて安藤凪の手の中のスマホを一瞥した。彼女のアカウントを借りなくても、自分では東京大学の掲示板にログインできないのだ。
そう思うと、福井斗真の周りの圧迫感が少し薄れた。彼は腕を組んだ。
「凪ちゃんがそう望むなら、見るのはやめておくよ。結局、夫婦というのはお互いを信頼し合うべきだからね。私は君を信じているよ。鈴木湊が君の過去の生活に関わることができたことを、本当に羨ましく思うけどね」
福井斗真は目を伏せて、安藤凪が断れないようにした。
傍らにいた高橋雅子がこの時に口を挟んだ。
「そう考えると、福井お爺さんは確かにあなたと鈴木湊に同じ要求をしたんですよね。つまり、福井社長もかつては凪ちゃんの過去の生活に関わる機会が十分あったということです」