第598章 悪夢

高橋雅子は心から安藤凪のために喜んでいた。

福井斗真がまだ戻ってこないと、雅子は凪ちゃんの精神面に問題が出るのではないかと心配していた。彼女は隠しきれない喜びを顔に浮かべながらも、安藤凪が福井斗真を迎えに行こうとしていることに気づき、少し冷静になって諭した。

「凪ちゃん、今のあなたの気持ちはわかるわ。福井社長に会いたくて仕方ないんでしょう。でも、彼はすでに迎えの人がいると言っているわ。あなたが今行っても、お互いにすれ違ってしまう可能性があるわ。それじゃあ二人が会える時間が遅れてしまうじゃない。家で待っていた方がいいと思うわ」

安藤凪は眉をひそめて不満そうな様子だった。そのとき、雅子は凪の携帯電話が鳴り続けていることに気づき、「凪ちゃん、電話が鳴ってるわよ」と教えた。

安藤凪が電話を取ると、見知らぬ国際番号だった。彼女は何かを思い出して電話に出ると、福井斗真の少し疲れた声が電話の向こうから聞こえてきた。「凪ちゃん、起こしてしまったかな？」

「ううん、斗真、今どこにいるの？会いに行くわ」安藤凪はその懐かしい声を聞いて、涙が真珠の糸が切れたように頬を伝って落ちた。彼女の泣き声に、福井斗真の胸は締め付けられた。

福井斗真は今すぐにでも安藤凪のもとへ飛んでいって、彼女をしっかりと抱きしめて慰めたいと思った。この一日一夜、安藤凪はさぞ怖い思いをしただろう。

彼も飛行機が途中で磁場の問題に遭遇して強制着陸することになるとは思っていなかった。昨夜は一晩中、支給された寝袋があっても眠ることができず、頭の中は安藤凪が今どうしているかという思いでいっぱいだった。幸い、二人はもうすぐ会える。

「凪ちゃん、僕は大丈夫だよ。今、飛行機の中だ。家で大人しく待っていてくれ。すぐに帰るから。この二日間、君は大変だったね。怖かっただろう？もうすぐ会えるよ」

福井斗真の低く優しい声は、まるで安藤凪の耳元で囁いているようで、彼女の心を落ち着かせた。彼の方からは飛行機のエンジン音も聞こえてきた。安藤凪は胸の中の思いを抑えて、分別ある返事をした。

「わかったわ。家であなたを待っているわ。あなたが無事でいてくれれば、それでいいの」