第619章 大物

安藤凪の声は冷淡だった。彼女は言い終わると、慌てることなく二人を見つめた。彼女の瞳は、まるで澄んだ水のように、何の波風も立てなかった。彼女はほぼ明確に言った、この件は一度始まったからには、途中で止めることは不可能だと。

二人が本当に何の過ちも犯していなければ、今回の調査で何の問題も見つからないだろう。

木村辰の父親の顔色は非常に悪かった。彼は無理に笑顔を作り出し、「福井夫人、あなたの言っていることがよく分かりません。何の寛大な処置ですか？私が今日来たのは、学校での出来事についてです。仕事では私はずっと真面目に働いてきました」

「あなたが真面目に働いてきて、良心に恥じるところがないなら、大人しく最終的な調査結果を待てばいいじゃないですか。上の者たちは決して善人を冤罪に陥れたりしませんよ、ご安心を」

安藤凪の一言で、彼が次に言おうとしていた言葉は封じられた。校長が言おうとしていたことも木村辰の父親が言ったこととほぼ同じだった。彼は安藤凪の態度が固いのを見て、これ以上主張しても口実を与えるだけで、良い結果にはならないことを悟った。

彼は深く息を吸い込み、目に一瞬の凶暴さが閃いた。たかがこんな小さなことで、安藤凪は理があっても容赦しない。もし彼の地位が本当に失われるなら、全力を尽くしても、自分をこのような状況に追い込んだ元凶を簡単には許さないだろう。

校長の悪意は、当然ながら敏感な安藤凪に捕らえられた。安藤凪は彼の方向に一瞥をくれたが、何も言わなかった。このような人間は、自分の思い通りになれば笑顔を見せるが、思い通りにならなければ、最終的な結果の責任をすべて他人に押し付ける。

校長に賄賂を受け取らせたのは自分ではない。彼は利益と恩恵を享受しておきながら、原因と責任をすべて他人のせいにする。世の中にそんな都合のいいことはない。

安藤凪は校長の反応を心に留め、予期せぬ事態を避けるために、校長の行動を見張らせることにした。結局のところ、追い詰められたウサギでも噛みつくものだ。

ましてや校長のような悪人なら、窮地に追い込まれたとき、何をするか分からない。

「それならば、私はこれで失礼します」校長は深く息を吸い込み、立ち上がって自ら辞去した。彼女のところでは何の進展も得られないことを知っているようで、校長は安藤凪が話すのを待たずに、そのまま立ち去った。