第655章 過去の出来事

安藤凪は少し落ち着いてから、福井斗真との距離を開け、怒りの目で彼を見つめた。ただ、彼女の目尻はまだ赤く、その視線には少しも威圧感がなかった。

「人に見られたって構わないだろう。どうした、俺は人前に出られない身分なのか？」福井斗真は眉を上げ、黒い瞳で安藤凪をじっと見つめた。

「私たちのことを生中継するような真似には興味ないわ」安藤凪は少し頭を抱えながら説明した。

「そうか。じゃあ帰ればもう生中継じゃなくなるな。今すぐ入札カードを全部投函して、ここを出よう」

福井斗真は少し焦れたように安藤凪の手を引いて入札カードを投函しに行った。

安藤凪は口角を少し引きつらせながら、福井斗真が自分の言葉を故意に曲解していると感じた。彼女は福井斗真に引っ張られて入札会場を一周し、七枚の入札カードをすべて投函した。

福井斗真と安藤凪の二人は芝居の一環として、135番の土地にも入札したが、書いた金額は最低入札価格だけだったので、どう考えても福井グループには回ってこないだろう。

二人が会場を出ようとしたとき、入口で鈴木湊とばったり出くわした。福井斗真は鈴木湊を見るなり顔色が急に曇った。彼は鈴木湊と関わりたくなかったが、鈴木湊の方から銃口に向かって突っ込んでくるようなものだった。

鈴木湊は足早に二人の前に歩み寄った。

福井斗真は安藤凪を自分の後ろに引き寄せ、冷たい表情で鈴木湊の前に立ちはだかった。彼の声は氷のように冷たかった。「鈴木湊、離れろ。こんな大勢の前で手を出すように俺を追い込むな」

彼の言葉は容赦なく、鈴木湊の顔色が変わったが、それでも平静を装った。「こんなに人がいるのに、兄さん、本当に僕に手を出すつもりなの？」

「ふん、この人たちが俺を敵に回してまでお前をかばうと思うのか？殴ったって構わない。信じるか信じないか知らないが、俺がここでお前を殴ったら、この会場の監視カメラはすぐに故障するだろう。俺を訴えても証拠なんてないさ」

福井斗真は軽蔑したように言い、顔には嫌悪感をあらわにした。「それから、俺を兄さんと呼ぶな。さもないとお前の母親の骨壷を掘り起こして、ゴミ捨て場にばらまくぞ」