第654章 資金の調達

安藤凪は少し呆れた様子で彼女が人混みの中に消えていくのを見ていた。その時、背後から抑えた笑い声が聞こえてきた。福井斗真の胸に寄りかかっていた安藤凪は、彼の胸が震えているのを感じることができた。

彼女はすぐに福井斗真を押しのけ、彼との距離を取った。

安藤凪は非難するように福井斗真を見て、「あなたのせいよ、さっき誤解されちゃったじゃない！」

「何を誤解するんだ、俺たちは合法的な夫婦だ。少し親密になったところで、誰にも迷惑はかけていない。それどころか、こんな人目につかない場所にいるのは、みんなの気持ちを考慮してのことだ」

福井斗真は堂々と言い放った。

安藤凪は口を開けたり閉じたりして、我慢できずに足を上げて彼のすねを蹴った。「あなたったら、得意げな顔して。ここは公共の場よ、もう少し気をつけて。次は、次はこんなことしないで。さもないと、さっきあなたに約束したことは全部なしにするわよ！」

福井斗真は最初、蹴られた場所を押さえて同情を引こうとしたが、安藤凪が自分への約束を取り消すと聞いて、すぐに姿勢を正し、安藤凪に一歩一歩近づいていった。安藤凪は後ずさりし続けたが、最終的には福井斗真に壁の隅に追い詰められてしまった。

突然大きく見える端正な顔を見て、安藤凪は思わず唾を飲み込み、冷静を装った。「福井斗真、ここは公共の場よ。あなた、何をするつもり？メディアはいないけど、もし誰かに撮られたら、明日本当にトレンド入りしちゃうわよ」

「トレンド入りしようがどうでもいい。凪ちゃん、本当に俺への約束を取り消すつもりか？」福井斗真は頭を下げ、声を極めて低くした。

彼は両手を安藤凪の腰に置き、彼女の腰をそっと撫でた。安藤凪は今日、腰が露出した黒いロングドレスを着ていた。福井斗真の少し硬い指先が、安藤凪に震えをもたらした。彼女は唇を強く噛んで話さないようにした。

周りの人々の話し声が、安藤凪の心を宙に浮かせ、誰かがこちらの異変に気づくのではないかと恐れていた。そうなれば、鈴木湊が厚かましいと言われる前に、自分の顔が立たなくなるだろう。

福井斗真は片手を安藤凪の下唇に当て、慎重に彼女の歯を開き、彼女の下唇に付いたピンク色の歯形をそっと撫でた。彼の表情には心配の色が浮かんでいた。「凪ちゃん、本当に素直じゃないね」