「凪ちゃん、最近の映画はこの『地獄の十八層』しかないけど、まだかなり席が空いているよ。急いでチケットを買いに行こう」福井斗真は安藤凪の手を引いて、チケットを買いに行こうとした。
安藤凪はそれを聞くと、すぐに若いカップルから意識を引き戻し、福井斗真の手を逆につかんで、首を振った。
「や、やめておこうよ。この映画は2時間半もあるし、私ちょっとお腹空いてるから、食事に行きましょう。食べ終わったら家に帰りましょう。饅頭が家で待ってるし、親として外でこんなに楽しんでいるなんて、良心が咎めるわ」
「良心が咎める?」福井斗真は口角を上げ、声色に別の感情を含ませた。安藤凪は福井斗真の目を見る勇気がなかった。天も地も恐れないのに、ホラー映画だけは怖かった。
「凪ちゃん、もしかしてホラー映画が怖いの?」福井斗真は突然頭を下げて、安藤凪と目を合わせた。「凪ちゃん、怖かったら、映画を見ている時に怖いシーンがあったら、僕が目を隠してあげるよ?」
このセリフ、どこかで聞いたことがある!
安藤凪は急に顔を上げ、福井斗真を見て、そして彼女を怖がらせようとしている若い男性を見た。そして彼の意味ありげな目と合うと、衝動的に考えもせずに言葉が飛び出した。
「誰が怖がってるの!今すぐチケット買いましょう。ただのホラー映画じゃない、私が怖がるわけないでしょ?」
彼女は自分の言葉をより説得力のあるものにしようと、声を上げたため、周りの人々が彼女の方を見た。安藤凪は顔を赤らめ、無意識に福井斗真の後ろに隠れた。
目的を達成した福井斗真は、眉目に喜びを満たし、先ほどまで鈴木湊のことで怒りに燃えていた様子はどこにもなかった。彼は唇を軽く動かし、「うん、凪ちゃんは怖くないんだね。じゃあチケットを買いに行こう」
そして、福井斗真は安藤凪に拒否する機会を与えず、彼女の手を引いてカウンターへ急ぎ、二つの席を選び、素早くお金を払った。この一連の流れはスムーズで、安藤凪が我に返った時には、チケットはすでに出来上がっていた。
出来上がった二枚の映画チケットを見て、安藤凪は泣きたい気持ちになった。彼女は自分の口を叩きたかった。「なぜ強がったのか、これで本当にホラー映画を見なければならなくなった」