携帯が何度か鳴り、伊藤明史の声が夜の冷たさを帯びて届いた。「もしもし。」
「C国に来たって聞いたけど、どこにいる?一杯飲みに来いよ。」
上野卓夫の口元に冷たい笑みが浮かんだ。
地面には、街灯が彼の細長い影を引き伸ばしていた。
「C国に来たのか?」
伊藤明史の声には驚きと薄い皮肉が混じっていた。
上野卓夫は低く笑って、「ああ、お前が何か収穫があったか見に来たんだ。」
「もちろん収穫はあるさ。」
伊藤明史の言葉が落ちた。
そして二秒ほど間を置いて言った、「酒が飲みたいなら、ヴェネツィアホテルに来いよ。」
——
30分後。
上野卓夫は伊藤明史の部屋のドアをノックした。
伊藤明史の寝間着姿を見て、彼は怠惰そうに眉を上げた。「海外まで来て、女を探しに来たわけじゃないだろう?部屋には香水の匂いがするぞ。」