上野邸の外。
秋田結の体は一瞬硬直し、反応した後すぐに目の前の男性を押しのけようともがいた。
「上野卓夫、離して」
「一分だけ抱かせて」
二人の距離は一瞬だけ離れた。
男性の低くかすれた声が鼓膜に入り込み、次の瞬間、彼女はまた馴染みのある清涼な男性の香りに包まれた。
秋田結の慌てた動きが止まった。
悲しみ、酸っぱさ、矛盾など無数の感情が潮のように押し寄せ、彼女の心を飲み込んでいった……
一分後。
上野卓夫は秋田結を放した。
彼女はすぐに後ろに二歩下がった。
彼との距離を保つために。
「結ちゃん、戻ってきたということは、もう行かないの?」
上野卓夫の瞳の色は彼女が後退したことで一瞬暗くなったが、すぐに口角を上げ、彼女に視線を固定した。
秋田結は彼の底知れない瞳に向かい合い、唇を噛んだ。