第253章 手放す(2)

上野邸の外。

秋田結の体は一瞬硬直し、反応した後すぐに目の前の男性を押しのけようともがいた。

「上野卓夫、離して」

「一分だけ抱かせて」

二人の距離は一瞬だけ離れた。

男性の低くかすれた声が鼓膜に入り込み、次の瞬間、彼女はまた馴染みのある清涼な男性の香りに包まれた。

秋田結の慌てた動きが止まった。

悲しみ、酸っぱさ、矛盾など無数の感情が潮のように押し寄せ、彼女の心を飲み込んでいった……

一分後。

上野卓夫は秋田結を放した。

彼女はすぐに後ろに二歩下がった。

彼との距離を保つために。

「結ちゃん、戻ってきたということは、もう行かないの?」

上野卓夫の瞳の色は彼女が後退したことで一瞬暗くなったが、すぐに口角を上げ、彼女に視線を固定した。

秋田結は彼の底知れない瞳に向かい合い、唇を噛んだ。