「伊藤社長。」
伊藤明史の後ろを歩いていた湯川大助が口を開いた。「三井美咲が時代劇『宮廷の争い』にとても興味を持っていると聞きましたが、本当ですか?」
秋田結の視線は伊藤明史の上に一瞬留まった後、湯川大助に向けられた。
湯川大助は口元を緩めて笑いながら言った。「結ちゃん、病室に戻って知心と知恵ちゃんの世話をしてあげなよ。僕が代わりに伊藤社長と伊藤夫人を階下まで送るから。ちょうど、伊藤社長とまだ話し終えていないこともあるしね。」
そう言いながら、湯川大助は二歩前に進んだ。
大きな手が秋田結の肩に置かれた。「伊藤社長を送った後、君にも話があるんだ。」
「何の話?」
秋田結は驚いて彼を見つめ、澄んだ瞳に疑問の色が浮かんだ。
湯川大助はわざと謎めかして言った。「とにかく良い話だよ、後で教えるから。」