第312章 身内贔屓

「お母さんは運転中、絶対に電話に出ないの」

知恵ちゃんが幼い声で説明した。

上野卓夫は優しく言った。「わかった、じゃあパパは切るね。ママに運転に集中させよう」

電話を切ると、三井忠誠が尋ねた。「卓夫、結ちゃんはもうすぐ着くの?」

「道中だよ」

上野卓夫はさらりと答えた。

三井忠誠はさらに言った。「まだ明彦に聞いていないんだ、彼がなぜそうしたのか」

上野卓夫の瞳に冷たい色が過ぎり、何かを思い出したように考えを変えて言った。「結と二人の子供を迎えに下に行くよ」

「僕も行く」

「……」

上野卓夫は三井忠誠を断ろうとしたが、彼が哀れな様子を見せていた。

彼はただ冷たく注意した。「もし結ちゃんがあなたに会いたくないなら、すぐに立ち去ってください。それに、彼女の前で伊藤明史のことを持ち出さないで」