第337章 私のことが好き?

瞳の奥に一瞬の驚きが過ぎり、秋田結は唇を軽く引き締めながら洗面所の方向へ歩いていった。

「秋田さん、こんにちは」

二歩ほどの距離で、鈴木亜弥が声をかけ、秋田結を呼び止めた。

秋田結は足を止め、唇の端に浅く淡い弧を描いた。「鈴木さん、私に用ですか?」

「はい」

鈴木亜弥は秋田結を二秒ほど観察し、礼儀正しく尋ねた。「秋田さんとお話しできますか?」

「鈴木さんは何についてお話したいのですか?」

秋田結は唇の弧を引き締め、柔らかな声音にこの季節特有の冷たさを滲ませた。

鈴木亜弥は微笑みながら言った。「秋田さんの音声劇をいくつか聴いたことがあります。あなたの声が大好きで、半分ファンみたいなものです」

秋田結はさらりと微笑み、何も言わなかった。

彼女が録音した音声劇は多く、ジャンルも様々だった。