瞳の奥に一瞬の驚きが過ぎり、秋田結は唇を軽く引き締めながら洗面所の方向へ歩いていった。
「秋田さん、こんにちは」
二歩ほどの距離で、鈴木亜弥が声をかけ、秋田結を呼び止めた。
秋田結は足を止め、唇の端に浅く淡い弧を描いた。「鈴木さん、私に用ですか?」
「はい」
鈴木亜弥は秋田結を二秒ほど観察し、礼儀正しく尋ねた。「秋田さんとお話しできますか?」
「鈴木さんは何についてお話したいのですか?」
秋田結は唇の弧を引き締め、柔らかな声音にこの季節特有の冷たさを滲ませた。
鈴木亜弥は微笑みながら言った。「秋田さんの音声劇をいくつか聴いたことがあります。あなたの声が大好きで、半分ファンみたいなものです」
秋田結はさらりと微笑み、何も言わなかった。
彼女が録音した音声劇は多く、ジャンルも様々だった。