065 彼はあなたが汚いと思っている!

森川萤子はにこにこと笑って、「私の曲は一曲千円よ。聞きたくないなら出て行ってもいいわ」

森川萤子は白井沙羅に好感を持っていなかった。

不倫と知りながら、それを堂々とやっている。モラルは犬に食われたのか。

白井沙羅の顔色が青くなったり白くなったりした。夏目清美はすぐに丸く収めようと、「萤子さんのピアノは素晴らしいわ。余韻が残るような演奏で、今夜はとても楽しかったわ。あなたたちがいてくれて感謝するわ」

森川萤子は微笑んで、頭を傾げてウェイターに何か言うと、すぐにウェイターが二つの赤いベルベットケーキを持ってきた。

「私からのちょっとした気持ちです。今夜、夏目社長の気分を害していなければいいのですが」と森川萤子は言った。

夏目清美は森川萤子の気配りを評価していた。彼女が望めば、誰もが心地よく感じるようにできるのだ。

「そんな言い方をすると他人行儀ね。この前のファッションショーで助けてくれたこと、まだちゃんとお礼を言えていないのよ」

夏目清美がファッションショーの話を持ち出すと、白井沙羅は森川萤子が着ていたドレスに細工したことを思い出し、心の中で不安になった。

森川萤子は笑いながら言った。「あなたはすでに大きな赤い封筒でお礼をしてくれたじゃない」

「そういえば、ショーの後、アシスタントがその日の衣装を片付けていたとき、あなたが着ていたドレスが縫い直されていたことに気づいたの。何か問題があったの?」

夏目清美のこの言葉に、白井沙羅の心臓がドキッとした。

森川萤子の唇には微かな笑みが浮かび、白井沙羅に一瞥をくれた。

「あの時、ドレスの糸がほどけていて、美香さんが発見して、急いで二針縫ったの。服を傷つけてないでしょう?」

夏目清美は慌てて手を振った。「いいえ、全然。美香さんが見つけてくれて良かったわ。そうでなければ大変なことになっていたわ」

夏目清美は縫われた場所を思い出し、今でもぞっとした。

もしあの時気づかなかったら、森川萤子がランウェイに出た時に糸がほどけて、彼女が公衆の面前で恥をかくだけでなく、ショー自体にも影響が出ていただろう。

森川萤子は白井沙羅の青ざめた顔色を横目で見て、夏目清美に少し注意を促すことにした。