午後、森川萤子は森川千夏を迎えに幼稚園へ行ったが、到着してみると千夏はいなかった。
甘美先生は驚いた様子で、「森川さん、千夏ちゃんはご家族の方がお迎えに来ましたよ。ご存じなかったのですか?」
「私の家族?」
若松様が集中治療室に横たわっていることを知らなければ、萤子は若松様が迎えに来たのだと思っただろう。
「はい、中條さんという方で、あなたの姑だとおっしゃっていました」甘美先生は若松様から聞いていた。森川萤子はお金持ちの夫と結婚したらしい。
今日、森川千夏を迎えに来た女性は洗練された趣味の持ち主で、身に着けていたサファイアのジュエリーセットは明らかに高価なものだった。
森川萤子は眉間にしわを寄せた。「甘美先生、私の許可なく他人に千夏を引き渡すなんて、職務怠慢ですよ」