050 もう愛していないでもいいの?

森川萤子は力いっぱい振り払おうとしたが、久保海人の手を振り切ることができなかった。彼女のもう一方の手も誰かに掴まれた。

片桐陽向は森川萤子を越えて、冷たい目で久保海人を見つめた。「彼女はあなたと行きたくないんだ」

久保海人はあっさりと森川萤子の手を放し、彼女の腰に手を回した。彼は片桐陽向を睨みつけた。「片桐さん、彼女は私の妻だ。片桐家の家風というのは、人の妻に手を出すことを教えているのかい?」

「久保海人、口を慎みなさい」森川萤子は怒鳴った。「狂犬みたいに誰にでも噛みつかないで!」

彼が自分をどう中傷しようと構わないが、片桐陽向を罵るのは許せなかった。

本来、この件は片桐陽向とは何の関係もなかった。昨夜の彼女の衝動的な行動がなければ、彼を巻き込むこともなかっただろう。