彼女を掴む力が徐々に消えていき、片桐陽向は彼女から手を放した。「今夜はまだ何か予定がある?」
森川萤子は本来なら10時までピアノを弾く予定だったが、今突然解雇されてしまい、これからどうすればいいのか分からなかった。
「私は……」
「予定がないなら、私についてくるんだ」片桐陽向は彼女の言葉を遮り、彼女の手を引いて立ち上がるとすぐに外へ向かった。
森川萤子は慌てて自分のバッグを掴み、よろめきながら片桐陽向の足取りについていった。
片桐陽向は歩きながら電話をかけた。
加藤悠真が会計を済ませて戻ってくると、テーブルは空っぽで、彼の兄と姉のような存在の二人の姿はなかった。
彼は急いで電話をかけた。
片桐陽向が電話に出ると、電話越しの声はさらに冷たさを増していた。「俺たちは先に行く。お前は一人で帰れ。酒を飲んだなら代行を呼ぶことを忘れるな」