森川萤子はボックス席に戻って食事をしていたが、先ほどの片桐陽向の嫌そうな口調を思い出し、急に食事がおいしく感じなくなった。
食事を終えて秘書デスクに戻ると、座ったばかりのところで内線電話が鳴った。
発信元表示に888と表示されているのを見て、森川萤子は電話に出た。向こうからは片桐陽向の氷のように冷たい声が聞こえてきた。
「ちょっと来てくれ」
森川萤子は彼の声の調子がおかしいのを感じ、急いで社長室へ向かった。
ノックをして入ると、彼女が机のそばに着くや否や、片桐陽向は一束の書類を彼女の胸元に投げた。
森川萤子は慌てて抱きとめ、下を見ると、それは人事部から送られてきた書類で、赤い「至急」のラベルが貼られていたが、実際にはすぐに処理する必要のない内容だった。
「森川秘書、君は秘書課で初日だが、こんな初歩的なミスを犯すのか?」