118 好きなら行け

深谷美香は考えれば考えるほど、この事が信じられなかった。片桐陽向は女性に近づかないことで有名なのに、まさかこんな要求をするなんて。

彼女は森川萤子を見つめながら、にやにや笑った。「やっぱり私たちの萤子はすごいね。高嶺の花の仏子を俗世に引きずり込んで、世俗的な欲望を持たせたんだから。」

「……」

森川萤子は恥ずかしさで顔を真っ赤にした。「小さい声にして、みんな聞こえちゃうよ。」

深谷美香は思わず笑みを漏らし、少し声を落とした。「どう返事したの？」

「一晩考えさせてって言われたの。」

「考える必要ある？」深谷美香はもう我慢できなかった。「私だったら、すぐに飛びついてるわよ。こんないいチャンスなのに。」

森川萤子：「……」

深谷美香は彼女の言いよどむ様子を見て、声を低くして言った。「まさか彼に対して何の下心もないなんて言わないでよ。」

森川萤子の顔は完全に赤くなった。

「真面目にして。彼はどんな身分で、私はどんな身分なの？」

深谷美香はにこにこしながら言った。「彼は男で、あなたは女。二人が一緒になっても何の問題もないわ。」

「ねえ、私がまだ既婚者だってこと忘れてない？」森川萤子は無力に皮肉った。

なぜみんな彼女が独身ではないという事実を無意識に忘れてしまうのだろう。

「それがどうしたの？久保海人はあんなに多くの女と寝てるけど、夫としての道徳なんて守ってないじゃない。あなたたちはそれぞれ好きにすればいいの。彼が我慢できなくなったら、自分から離婚を切り出すわよ。」

森川萤子は自分の評判を大切にするのと同様に、片桐陽向の名声も大切にしていた。彼女は、片桐陽向の人生における汚点になりたくないと思っていた。

「私は……」

「心動かされないの？あんなにハンサムな男が泣きながら騒ぎながらあなたと付き合いたいって言ってるのに、少しも心が揺れないの？」深谷美香は尋ねた。

森川萤子：「……」

心動かされないだろうか？

もし本当に心動かされていなかったら、今夜片桐陽向に街灯の柱に押し付けられて無理やりキスされた時、彼の顔を平手打ちしていただろう。

でも……

彼女は無駄な抗議以外に、反撃することを思いつきもしなかった。

森川萤子はため息をついた。「今は仕事に集中して、お金を稼いで家族を養いたいだけ。」