172 私はあなたが欲しい

森川萤子はドア枠に寄りかかり、寝室の中を見た。前回は光が暗く、曖昧で不明瞭だったため、彼女はよく見ていなかった。

片桐陽向の寝室もとてもシンプルで、壁に沿ってクローゼット、ダブルベッド、二つのナイトテーブルがあった。

面積は彼が育苑に持っている浴室よりも小さく、内装もそちらほど豪華ではなかった。

しかし彼がベッドに斜めに寄りかかっているだけで、部屋全体が明るくなった。

森川萤子はようやく気づいた、彼が着ているパジャマは彼女のものと同じシリーズだということに。

彼女は後から気づいた、これがカップルパジャマなのだろうか?

「このアパートはあなたの好みではないようね」森川萤子はベッドの側に歩み寄り、窓の外の景色を眺めた。

片桐陽向は少し眉を上げた。「ああ、このアパートは除隊後、部隊から支給されたものだ」

「???」

森川萤子はこのアパートが片桐陽向にとってそのような意味を持っているとは思わず、急に敬意を抱いた。

「団地はかなり古いが、東京で最も人気のある学区だ。隣の通りには東京最高の実験小学校があり、もう一方には中学校、さらに東京最高の高校もこのエリアにある。子供の将来の教育問題を解決してくれる」

最も重要なのは、彼の身分が大都会の中に隠れていることで、それが最良だった。

森川萤子は片桐陽向の名高い家柄を考えると、このアパートは彼が育苑に持っている一つの寝室よりも小さかった。

しかし不思議なことに、彼女はこのアパートこそが片桐陽向が本当に所有しているものだと感じた。

「あなた...私をここに連れてくるべきではなかったわ」

このアパートは片桐陽向にとって重要な意味を持っている。彼は人生で最も大切な人をここに連れてくるべきで、ベッドパートナーを連れてきて汚点を残すべきではない。

片桐陽向は彼女を見つめ、少し険しい目つきで言った。「興ざめな話はやめてくれ」

森川萤子:「...」

彼女は片桐陽向と視線を交わし、彼の目に不機嫌さを見た。彼女は近づき、身を屈めて両手を男性の太ももの両側に置いた。

急に縮まった距離で、二人の息が絡み合った。片桐陽向は動じなかったが、呼吸は荒くなった。

「話さないなら、しましょうか」