十億は確かに高額な結納金だった。森川萤子は普通の人なら心が動かされるだろうと思った。
深谷家は東京の名家の中では目立たないかもしれないが、それでも財産は相当なものだ。
深谷お父さんは金に目がくらんで、最愛の娘を売り飛ばすようなことはしないはずだ。
「美香さん、私のせいなの?」森川萤子は深谷美香が片桐家で彼女のために抗議したことを思い出した。
あの日、彼女は久保海人を窮地に追い込んだ。久保海人の恨みを必ず晴らすという性格からして、彼女を簡単には許さないだろう。
深谷美香:「ほら、やっぱり言わない方が良かったのよ。言えば必ず自分に責任を負わせようとするんだから」
「久保海人が何かしたの?深谷おじさんがこの縁談を承諾せざるを得なくなるようなことを?」
深谷美香の目が揺れた。