一日中、森川萤子は忙しさに追われていた。午後、林田秘書に呼ばれて神崎会長のオフィスへ向かった。
森川萤子は神崎会長のオフィスを訪れるのは初めてではなかった。前回の不安に比べて、今回は明らかに落ち着いていた。
林田秘書がドアをノックした。「神崎会長、森川秘書がお見えになりました。」
「入れなさい。」
林田秘書は脇に寄り、森川萤子に入るよう手振りで促した。森川萤子はハイヒールを履いて中に入った。
デスクの傍に立っている郭夏子を見て、森川萤子は胸に不吉な予感を感じた。
神崎会長は痩せていながらも精悍で、鷹のような鋭い視線を森川萤子に向けた。
「土曜日、あなたが神崎社長に誘惑的な態度を取り、自分の部屋のカードキーを渡して誘ったそうだね。なぜ彼が部屋を間違えたのか、あなたが片桐陽向と共謀して罠を仕掛けたのではないのか?」