森川萤子は車を運転して片桐家の邸宅に入り、車が停まるとすぐに、片桐润平が別荘から走り出てきた。
「千夏ちゃん、森川先生」
片桐润平はシャツとサスペンダーパンツを着て、お金持ちの坊ちゃんのように紳士的だった。
一方、森川千夏はカラフルなモンキー柄の上下を着て、まるで坊ちゃんの付き添いのようだった。
森川萤子は二人が抱き合う様子を見ていた。一人は繊細で美しく、もう一人は丸くて可愛らしかった。
「润平、たくさんおもちゃを持ってきたよ。バイオリンのレッスンが終わったら一緒に遊ぼうね」
「うん、いいよ」
片桐润平は森川千夏の手を引いて階段を駆け上がり、森川萤子はゆっくりと後に続いた。
玄関ホールに入ると、神崎静香が生け花をしていた。森川萤子は挨拶をした。
最近よく来ているので、神崎静香は軽く頷いただけだった。「森川先生、来たのね。润平は朝からあなたの話ばかりしていたわ」
森川萤子は微笑んだ。「润平はバイオリンが大好きなんです」
「あなたが面白く教えているからこそ、彼は興味を持っているのよ」神崎静香はそう言いながら、片桐润平とおもちゃを共有している森川千夏を見た。
彼女の視線はしばらく止まった。「あれはあなたの弟さん?」
「はい、奥様。母が開頭手術をしたばかりで、彼の面倒を見る人がいなかったので、連れてきました」と森川萤子は言った。
「あなたによく似ているわね」と神崎静香は言った。
森川萤子は少し心苦しくなった。以前は皆がそう言うと、彼女は平然と「私たちは実の姉弟ですから」と返していたが、今はどうしても口にできなかった。
「はい、私たちを見た人はみんなそう言います」
神崎静香はさらに二、三言葉を交わした後、森川萤子は片桐润平を連れて行った。
森川千夏はソファでおもちゃで遊んでいたが、一人では退屈だったので、少しずつ神崎静香の側に移動した。
「おばあちゃん、何してるの?」
神崎静香は彼をちらりと見て、余分な枝や葉を切りながら「生け花よ」と答えた。
森川千夏はつま先立ちして花瓶に近づき、匂いを嗅いだ。「いい香り。これは蓮の花?」
「蓮の花を知っているの?」神崎静香は笑いながら尋ねた。
「若松様がよく揚げた蓮の花を食べさせてくれるから、わかるんだ。おばあちゃん、揚げた蓮の花食べたことある?」森川千夏は無邪気に可愛らしく尋ねた。