205 私が洗うのを手伝いましょうか?

久保海人は心の中でよく分かっていた。片桐政一夫妻が彼に会ってくれるのは、子のおかげで親が尊ばれるからだ。

でも彼は気にしなかった。

「早く結婚の日取りを決めるのはいいことだよ。そうすれば結婚式の準備に取り掛かれるし、その時には私たちは名実ともに夫婦になるんだ」

片桐美咲は「夫婦」という言葉に恥ずかしそうな表情を見せた。「あなたはまだプロポーズもしてないのに、私はあなたと結婚なんてしないわ」

久保海人は彼女の手を捕まえて引き寄せ、手の甲にキスをした。「必要な儀式感は全部君にあげるよ、焦らないで」

片桐美咲は心の中が甘く溶けるようで、考えずに言葉が口から飛び出した。「あなたは前の奥さんにプロポーズしたことある?」

久保海人は前方を見つめ、少し冷たい口調で言った。「ない」

片桐美咲は彼の表情を見て、自分の率直さを後悔した。彼女は彼の手を握り、明るい声で言った。「じゃあ私が唯一なのね、素敵」

彼女のそんな単純な喜びが久保海人にも伝染した。「プロポーズはただの始まりだよ。私たちには一生という未来がある」

恋人同士の間では、シンプルな愛の言葉でさえお互いの心を高鳴らせる。まして一生の約束ならなおさらだ。

片桐美咲は花のように笑った。「じゃあ一生私を大切にしてね」

「いいよ」

片桐美咲は久保海人の手を握った。「海人さん、あなたは私を愛してる?」

「愛してないなら、君のお腹の中の赤ちゃんはどうやってできたと思う?」久保海人は軽薄に彼女のお腹を一瞥し、不良っぽく笑った。

片桐美咲は顔を赤らめ、彼の手の甲をつねった。「まじめにして」

久保海人は彼女の恥ずかしそうな様子を見て、大声で笑い出した。「君は僕の不真面目な姿が一番好きなんじゃないの?」

片桐美咲は彼らの初対面を思い出した。その時、彼女は車の中で彼と関係を持った。

当時の彼女は何も知らなかった。ただこの男性に心惹かれ、何かを起こしたいと思っていた。たとえそれが一夜限りのことであっても。

幸いにも、彼らはもうすぐ結ばれようとしていた。

片桐美咲は横目で久保海人を見た。今見ても彼に心惹かれる。

ただ…

森川萤子のことを思い出すと、片桐美咲の心には少し気になることがあった。森川萤子はあんなに美しいのに、久保海人は彼女に一度も心惹かれなかったのだろうか?

でも、それは聞けなかった。

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