久保海人は心の中でよく分かっていた。片桐政一夫妻が彼に会ってくれるのは、子のおかげで親が尊ばれるからだ。
でも彼は気にしなかった。
「早く結婚の日取りを決めるのはいいことだよ。そうすれば結婚式の準備に取り掛かれるし、その時には私たちは名実ともに夫婦になるんだ」
片桐美咲は「夫婦」という言葉に恥ずかしそうな表情を見せた。「あなたはまだプロポーズもしてないのに、私はあなたと結婚なんてしないわ」
久保海人は彼女の手を捕まえて引き寄せ、手の甲にキスをした。「必要な儀式感は全部君にあげるよ、焦らないで」
片桐美咲は心の中が甘く溶けるようで、考えずに言葉が口から飛び出した。「あなたは前の奥さんにプロポーズしたことある?」
久保海人は前方を見つめ、少し冷たい口調で言った。「ない」