金田恵美は危機感がないわけではなく、彼女は片桐美咲よりも現実をよく理解していた。
どんな男も結婚前には外に何人かの女性がいるものだが、片桐陽向の人柄なら、結婚さえすれば外の女性とはきっぱり縁を切るだろう。
森川萤子はあの顔で片桐陽向のベッドに上り詰めるかもしれないが、彼女が片桐陽向に結婚を決意させることは絶対にできないだろう。
「金田さん、あまり思い込みすぎないほうがいいですよ。もし片桐社長が森川秘書のようなタイプを好きになって、どうしても彼女と結婚したいと言い出したら、誰にも止められないでしょう?」
金田恵美はまだ首を振った。「どじょうがドラゴンになることはない」
森川萤子は片桐陽向の玩具に過ぎず、片桐陽向が妻を迎えるなら、やはり釣り合いのとれた名家の令嬢を選ぶだろう。
鈴木優子はそこまで言って止めた。これ以上言っても無駄だった。
どんな種も一度蒔かれれば、時が来れば芽を出し、成長するものだ。
金田恵美も鈴木優子の言葉を完全に無視したわけではなかったが、彼女はバカではなかった。
鈴木優子が彼女を利用して森川萤子に問題を起こさせようとしていることは明らかだった。そんなに愚かではない。
神崎静香はすぐに片桐陽向のためにお見合いをセットした。彼女は片桐陽向には知らせず、代わりに森川萤子に電話をかけた。
森川萤子はこの日がこんなに早く来るとは思っていなかった。彼女は神崎静香に、必ず片桐陽向をお見合いに行かせると約束した。
電話を切ると、彼女はズキズキと脈打つこめかみを押さえた。片桐夫人は本当に難題を出してくる。
どうやって片桐陽向をだましてお見合いに行かせればいいのだろう?
直接言うのは明らかに無理だ。片桐陽向が怒って彼女を殺さないだけでもましだろう。
しかし彼女は神崎静香のお菓子を食べた以上、この件を失敗するわけにはいかない。
あれこれ考えた末、彼女は引き出しから前回の出前の時に店からもらった小さなカードを取り出した。
カードに日時と場所を書き、片桐陽向が来ないことを恐れて「必ず来てください」という一文も加えた。
少し迷った後、小さなハートマークも加え、今回は書類の間に挟んで片桐陽向に渡した。
すでに退社時間になっていたので、森川萤子は書類を片桐陽向の前に置いて言った。「片桐社長、特に用事がなければ、私は先に帰ります」