第45章 黒田奥様は他の男性をとても気にかけている(2)

ここまで言うと、西村絵里は微笑んで自分の席に座った。矢崎凌空は再び顔色を失った。

彼女は黒田奥さんなど全く知らなかった。

仙台の人々にとって、黒田真一は絶大な権力を持ち、その素顔を知る者はなく、謎に包まれていた。

しかし、さらに謎めいているのは2年前に豪門に嫁いだ黒田奥さんだった。

皆の前で自分が黒田奥さんと親しく、彼女のお気に入りだと言ったのは、他の人々に諦めさせるため、黒田真一を誘惑しようとしないよう、自分が見ているぞと知らしめるためだった。

他の人たちを蹴落とせば、自分にチャンスが回ってくる。

矢崎凌空は急所を突かれ、特に西村絵里が黒田真一への不純な企みを暗示したことで、心が乱れた。

西村絵里がそう言うと、他の女性社員たちがすぐに集まってきた。

「主任、私たちのことも良く言っておいてくださいね。黒田社長は奥さんをとても愛しているんでしょうね。結婚して2年、毎年の忘年会に連れてきて、スキャンダルもない。今時、黒田社長のような完璧な夫はどこにもいませんよ」

「そうですよ、主任。私たちも昇給を望んでいるんです」

「主任、あなたが黒田奥さんの側近だなんて、すごいですね」

矢崎凌空は先ほど大きな嘘をついたため、この時点で顔を真っ赤にして、心虚ながらも口を開いた。

「わかったわかった、みんな席に戻って仕事して。私が心得ているから」

西村絵里は口元に嘲笑を浮かべた。矢崎凌空は知らないのだろうか、一つの嘘には、絶え間ない嘘で取り繕う必要があることを。

彼女が夜にどうやって自分に取り入ろうとするか、見ものだ。

……

退社時間になり、西村絵里は素早く荷物をまとめ、駐車場へ急いだ。

すぐに黒田真一が車で彼女の前に停車した。西村絵里は唇を噛み、車内に乗り込んだ。

車に乗るとすぐに、携帯が鳴った。藤原海翔からの電話だった。

「絵里ちゃん、今日の黒田グループの忘年会はトーテムで開催されるけど、用事があって迎えに行けないんだ。会場で会おうか?」

「いいえ、私も用事があるから、今日は参加しないわ」

西村絵里は小さな手を組み合わせ、心の中で藤原海翔に謝罪した。わざと嘘をついているわけではない。

彼女はすでに黒田真一の件で嘘をついており、夫が死んだと言ったのだから、その嘘を貫かなければならない。しかし、それは絶対に善意の嘘だった。