第102章 私はあなたの唾液を気にしない(1)

黒田真一は眉を上げて西村絵里の翡翠のような小さな顔を見た。彼女は怒りで顔を赤らめ、薄い唇を引き締めていた。

美人は玉のようで、言葉にできないほど魅力的だった。

「どうした、怒ったのか?」

西村絵里は黒田真一の何気ない言葉を聞いた。彼の一挙手一投足には気品があり、全身から王者の気迫が隠せなかった。

もし「はい」と言えば、結果はもっと深刻になるだろう。

あれこれ考えた末、西村絵里は我慢した……

自分が怖気づいたわけではなく、相手が強すぎるのだ。

相手が厚顔無恥なら、自分もそれに倣うわけにはいかない。

「そんなことありませんよ、黒田社長のために味見してあげます」

そう言って、西村絵里は口元に甘い笑みを浮かべたが、その笑顔は目には届かなかった。彼女は黒田真一の前に座り、箸を取って目の前のハマグリを味わった。

味も温度も丁度良かった。

「黒田社長、問題ありません。お召し上がりください」

「ありがとう」

黒田真一はゆっくりと味わった。帰国してからより一層風味が増していた。

「西村絵里、エビの天ぷらも味見してくれないか」

「はい、野菜スープも……少し塩辛いようですが、ご自分で確かめてみてください」

「いや、全部味見してくれないか。大丈夫、君の唾液は気にしないから」

西村絵里:「……」

黒田真一は本当に度が過ぎる。

……

いつの間にか、元々一人で夜食を食べていたのが、二人になっていた。

黒田真一の口元の笑みが深まり、深い黒い瞳はますます妖艶に、人の心を惑わせるものになった。

とても温かい雰囲気だった。

……

夜食を食べ終えると、西村絵里はティッシュを取り出して唇の端を軽く拭いた。

「黒田社長……もう遅いので、私は先に帰ります」

「申し訳ないが、帰れないよ。さっきの運転手はただ君をここまで送るだけで、送り返す役目はない……彼は夜は勤務終了だ。従業員に夜遅くまで働かせたくない、私はやはり人間味のある人間だからね」

西村絵里:「……」

では自分は?

西村絵里は黒田真一に聞きたかった。今彼のために料理を作っている自分は、夜ではないのか?

「黒田社長、あなたは……車を……運転して……送って」

ここは郊外で、タクシーが捕まらなければ、西村絵里も黒田真一に頼みたくなかった。