第103章 私はあなたの唾液を気にしない(2)

西村絵里は多少不安を感じていたので、客室に入るとすぐにドアをしっかりと施錠した。

自分は本当に騙されてしまったのだ。

男の心は測り知れないもので、自分は男に引っ張られるままになるべきではなかった。しかし相手が黒田真一となると、西村絵里はどうしても抵抗できなかった。

特に視線が偶然、自分が噛んで傷つけた彼の唇に落ちると、いつも心の中に何か異様な感覚が走った。

以前なら背筋を伸ばし、自分の行いは正しく、座り方も正しいと思えていた。

今は…

少し後ろめたさを感じていた。

自分と黒田真一の関係は、確かに普通の社員と上司の関係を超えていた。

……

清潔なベッド、かすかなミントの香りがとても心地よかった。

客室とはいえ、マッサージバスタブが備え付けられ、すべての欧風家具は輸入素材で作られていた。

西村絵里は眠気がなく、考えた末、白い紙と鉛筆を見つけてデザイン画を描くことにした。

藤原お爺様の誕生日に適切なプレゼントが思いつかず、考えた末、自分で直接マスコットをデザインし、後で誰かに製作を依頼することにした。

西村絵里は一度絵を描き始めると、完全に我を忘れる境地に入った。

夜11時から描き始め、朝の2時まで描き続けた……

描き終えると、西村絵里は思わず伸びをして、その後キッチンへ向かい、水を飲んでから休もうとした。

……

西村絵里がお湯を一杯注いでキッチンから出てきたとき、眠気のせいで全身がだらけており、注意が散漫になっていた。バン!彼女は男性の逞しい胸にぶつかってしまった。

西村絵里:「……」

西村絵里は痛みを感じて眉間をさすり、顔を上げて目の前の男性を見た。美しい瞳が微かに揺れた。

男性はカーキ色のパジャマ姿で、襟元が露わになっており、引き締まった体つきが見えた……

「黒田社長!」

「こんな遅くまで、まだ寝ていないのか?」

「私は…少し喉が渇いて、水を飲みに来ました。」

西村絵里は口元に薄い笑みを浮かべたが、黒田真一にはすぐに否定された。

「ずっと寝ていなかったのか?」

西村絵里の服装、髪型は整っており、先ほど会った時と同じだった。

「はい…雪を見ていました。雪が降っているんです、そうです…」