言い終わると、黒田真一は直接トイレの方向へ歩いていった。
……
西村絵里は目の前のブラックフォレストケーキを小さく口に運んでいたが、全く食欲がなく、ただ機械的に飲み込むだけだった。
バッグの中の携帯が鳴り、西村絵里は慌ててバッグから携帯を取り出した。黒田真一からのメッセージだった。
黒田奥さん、トイレの方向で待っているよ。
西村絵里:「……」
「黒田奥さん」という一言で、西村絵里の顔色が青ざめた。藤原海翔の視線が自分に向けられているのを感じ、西村絵里は慌てて携帯の画面をロックし、小声で言った。
「藤原三郎、ちょっとトイレに行ってくるわ」
「一緒に行こうか……」
「大丈夫よ、小さい頃からよくここに来てたから慣れてるの、一人で行けるわ」
「わかった」
……
西村絵里は深呼吸をして、トイレの方向へ歩き出した。小さな手を組み合わせながら。
客はみなリビングにいたので、トイレの方向には人がほとんどいなかった。
来るべきものは……
必ず来るものだ。
西村絵里は避けられないことを知っていた。
ただ、トイレ方向にある音楽室を通り過ぎる時、強引な力が自分の手首を掴み、彼女を音楽室の中へ引きずり込んだ。
藤原家は常に教育を重視し、詩書礼楽春秋のすべてが揃っていた。
一階には音楽室、書斎、調香室などがあり、西村絵里も小さい頃に遊びに来ただけだった。
思わず驚きの声を上げると、彼女の唇は男性の大きな手で素早く覆われ、次の瞬間、西村絵里は「カチッ」という音を聞いた。ドアに鍵をかける音だった。彼女の美しい瞳は驚きで大きく見開かれた。
男性の端正な顔が自分の目の前で無限に拡大され、西村絵里の顔色はひどく青ざめた。
男性の黒い瞳は深遠で、海のように深く、謎めいていた。
「黒田奥さん?」
西村絵里:「……」
「それとも、もう少しで私の弟の嫁になるところだったと感慨深く思うべきかな?」
西村絵里:「……」
西村絵里は黒田真一の無造作な言葉を聞きながら、小さな手を握りしめ、口元に微笑みを浮かべたが、顔色は血の気が全く感じられないほど青白かった。
「出張だって言ってたじゃない?どうして急に戻ってきたの?」
黒田真一は西村絵里の口元が明るく笑っているのを見て、細長い黒い瞳を少し細め、高い体格で女性の華奢な体を圧した。