西村絵里は元々お爺様に自分が心を込めて準備したプレゼントを贈りたかっただけだったのに、寅虎がそれをオークションにかけることになるとは思いもしなかった。
チャリティーオークション、高値をつけた者が手に入れる。
幸い価格は二の次で、最も重要な目的はチャリティーのためだった。
藤原海翔の性格からすると、きっと価格を吊り上げて、高額で落札するだろう。
JRは自分が学生時代に使っていたペンネームで、香坂悠生はずっとそれを知っていた。
では、彼もオークションに参加するのだろうか?
西村絵里は頭皮がひどくぞわぞわした。幸い黒田真一はこの作品が自分のものだとは知らない。
あの時デザイン画を描いていた時……
西村絵里の顔色が微かに変わった。自分は臨海別荘で描いていたが、その時、完成したデザイン画を黒田真一は見たことがあるだろうか?
もし見ていたら、つまり?
自分がJRだと知っているということ?JR、西村絵里、黒田真一は頭が切れるから、気づくのは時間の問題だろう。
その可能性を考えると、西村絵里の心臓はドキドキと止まらなくなり、男性の背の高い体が自分の後ろに立っていることを知りながらも、振り返って彼を見る勇気が出なかった。
彼を見るだけで、先ほどピアノルームでの絡み合いの場面を思い出してしまう。
「開始価格は100万円です。皆様のご入札をお待ちしております。」
司会者の言葉を聞いて、藤原お爺様が率先して模範を示し、「この老人が200万円だ」と言った。
藤原海翔は口元を上げ、「お爺様が200万円と言うなら、お爺様のお祝いのために、私は1000万円を出そう」と応じた。
会場から驚きの声が上がった。JRは単に有名なデザイナーというだけでなく、藤原お爺様の誕生祝いのためということで、お爺様の面子を立てるために開始価格を100万円にしていた。
元々500万円以下に収まると思っていたのに、藤原海翔がいきなり1000万円まで吊り上げるとは。
西村絵里の心がドキッとした。1000万円……
「藤原三郎、冗談はやめて。」
藤原海翔は西村絵里の言葉を聞くと、すぐに「2000万円!」と言った。
「藤原三郎、あなた……」
「5000万円。」
西村絵里はもう声を出す勇気がなくなった。藤原海翔が本当に何でもやりかねないことを知っていた。