西村絵里:「……」
黒田真一のような人とは、西村絵里はもう話し合うことがなかった。窓の外の景色を見つめ、しばらく落ち着いてから、再び口を開いた。「黒田社長、この件は水に流しましょう……ところで、黒田社長は法律を守る良き市民ですよね?」
「もちろんだ」
「そうですか……それならいいんですが、黒田社長が認めないんじゃないかと心配で……私たちの結婚契約書は2部作成されて、あなたと私がそれぞれ1部ずつ持っていますよね……私たちは結婚後3年間、他人同然で、お互いに干渉しないと約束したはずです。黒田社長、あなたの最近の行動は、契約書の内容に違反していますよ」
追い詰められれば……ウサギだって人を噛むものだ。
それに、西村絵里はさっきまで少し混乱していて、感情が限界に達していたからこそ、黒田真一に思うがままにされていたのだ。
今は、もうそんな状況にはならない。自分のために断固として主張するつもりだった。
黒田真一は西村絵里のそんな敵意むき出しの様子を見て、口元を少し上げた。この姿の西村絵里は、かなり可愛くて人の気を引くものだった。西村絵里は態度では強がっているものの、内心ではとても緊張していた。
「ふむ……」
西村絵里は黒田真一が淡々と「ふむ」と返事をするのを聞いて、表情が固まった。この「ふむ」はどういう意味だろう?
「あっ……」
西村絵里が固まっている間に、男が優雅にブレーキをかけ、車を道路上に停車させた。
「黒田真一、何をするつもり?」
「見せたいものがある……」
西村絵里:「……」
何だろう?西村絵里は少し困惑して目の前の男を見つめた。すると、黒田真一が後部座席から書類入れを取り出して彼女に渡した。
「見てみろ、間違いがないか」
西村絵里:「……」
どういうこと?西村絵里は心の中で不吉な予感がして、急いで書類入れを開け、中身を見た。彼女はその場で固まってしまった。
「これは私の婚前契約書のはずなのに、なぜあなたが持っているの?私は確か……」
家には西村安国の書類がたくさんあったので、それらをきちんと保管するために、西村絵里は西村安国の書類と自分の婚前契約書を一緒に保険会社に預けていた。
本人が身分証明書を持って行かなければ取り出せないはずだった。まさか、黒田真一が手に入れるとは。
「西村絵里、この世に絶対に安全な場所などない」