第171章 黒田奥様は妊娠した2更(5)

「いいえ」

西村絵里は手の中のものを捨てようとしたが、矢崎凌空に聞かれたら説明できないと心配した。

結局、矢崎凌空のような人なら、物がなくなれば必ず騒ぎ立てて返せと言ってくるだろう……

こういう人が一番嫌だ。

西村絵里は美しい瞳を少し顰め、これをどうしたらいいのだろう?

……

黒田真一が車内に座ると、西村絵里が眉を曇らせている様子が目に入り、薄い唇を引き締めた。

「どうしたの?」

「何でもないわ」

西村絵里は口角をわずかに引きつらせた。矢崎凌空が裏で黒田真一と寝る方法を話し合っていたなんて、言えるわけがない。

こういう女同士の揉め事は。

西村絵里は黒田真一に頼って一緒に争うつもりはなかった。

それに……

矢崎凌空のような人には、西村絵里はそもそも注意を払いたくなかった。