「いいえ」
西村絵里は手の中のものを捨てようとしたが、矢崎凌空に聞かれたら説明できないと心配した。
結局、矢崎凌空のような人なら、物がなくなれば必ず騒ぎ立てて返せと言ってくるだろう……
こういう人が一番嫌だ。
西村絵里は美しい瞳を少し顰め、これをどうしたらいいのだろう?
……
黒田真一が車内に座ると、西村絵里が眉を曇らせている様子が目に入り、薄い唇を引き締めた。
「どうしたの?」
「何でもないわ」
西村絵里は口角をわずかに引きつらせた。矢崎凌空が裏で黒田真一と寝る方法を話し合っていたなんて、言えるわけがない。
こういう女同士の揉め事は。
西村絵里は黒田真一に頼って一緒に争うつもりはなかった。
それに……
矢崎凌空のような人には、西村絵里はそもそも注意を払いたくなかった。
結局、意味がないから。
「ふむ」
黒田真一は少し落ち着かない様子の西村絵里をさっと見て、彼女が握りしめている手に視線を落とし、一瞬考え込んだ。
小さな瓶のようだ。
正体不明の小瓶。
西村絵里が何を持っているのかわからない。
「何か持っているなら、村上秘書、後でハンドバッグを用意してくれ」
「はい、黒田社長」
村上秘書は運転中だったが、すぐに電話をかけ、最新のハンドバッグを藤原家に届けるよう手配した。
黒田社長は、西村さんにますます優しくなっている。
西村絵里は黒田真一の言葉を聞いて、少しほっとした。
そうでなければ、携帯もなく、小瓶を手に持ったままでは確かに不便だ。
「ありがとうございます、黒田社長」
「うん……」
黒田真一の視線が西村絵里の優しい顔に落ち、薄い唇を引き締めた。
「西村絵里、子供は好き?」
西村絵里:「……」
黒田真一の突然の質問に、西村絵里は美しい瞳を見開き、一瞬反応できなかった。
黒田真一がなぜ突然この質問をするのかわからなかった。
「好きよ」
「子供たちは考え方が純粋だから。時には泣いたり、可愛らしく振る舞ったり、甘えたりする。一番たまらないのは、時々大人のように理屈を言ったり、自分の小さな世界を持っていて、好きな人もいるところ」
西村絵里は完全に甘奈のことを話していた。
甘奈の考えについては、当然よく理解していた。
可愛らしく振る舞い、さらにはTfboyとEXOを全部自分の彼氏にすると言ったりする。