堇顔

表向きだけの結婚契約――有効期限は3年。
形だけの夫婦関係、まるで他人同然。
そして契約終了を目前に、彼女は新たな職場に就職する。まさか、その上司が夫だった。
「すみません。邪魔するつもりはありません。ただ、黒田グループを選んだのは……お給料が良かったからです」
冷静な態度で履歴書をめくる男は、ふと問いかけた。
「西村絵里、19歳のとき、どうして1年間休学していたの？」
「……大学1年の時、家庭に少し事情がありまして」
「そう？じゃあ、なぜ下腹部に傷があるの？」
「……虫垂炎です」
その瞳は、どこまでも深く、彼女の心を見透かすようだった。
3年の契約が満了し、彼女は痛みを堪えながら、静かに、そして毅然と背を向けて離婚届にサインした。
けれどその後も、なぜか元夫はしつこく付きまとってきて……
さらには、彼女の恋のチャンスまで次々と潰してくる。

黒田さん、結婚して見ませんか～

甘奈は是非の意味を理解していなかったが、西村絵里のこんなに真剣で厳粛な様子を見て、よく考えた後、真剣に頷いた。


「ママ、わかったよ。でも...私、こっそりと彼のことをパパって呼んでもいい？だって、パパって呼ぶ感じ、本当に最高なんだ。」


「ママ、私、今まで誰かをパパって呼んだことないの。怖いの...今練習しておかないと、将来パパが帰ってきた時に、呼べなくなっちゃうよ。」


実は甘奈と話している時、西村絵里の心の中では常に緊張感があった。


小さな女の子がこう言うのを聞いて...特に最後の一言、今練習しておかないと、パパが帰ってきた時に呼べなくなる、という言葉に、美しい瞳が湿っていた。


本当に、もう少しで...我慢できずに、涙があふれ出すところだった。


自分はいつも甘奈に対して申し訳ない気持ちでいっぱいだった...


第225章 あなたを抱きしめて愛したい2更(5)

第225章あなたを抱きしめて愛したい2更(5)