第266章 孤男寡女が温泉に入る2更(8)

黒田真一は口元を少し上げ、大きな手で西村絵里の細い手首を掴み、率先して西村絵里を露天風呂へと引っ張りながら、何気なく言った。

「絵里、君が嫌だと言っても、それで済むわけじゃないんだよ」

西村絵里:「……」

男性の口元に浮かぶ意地悪な笑みを見て、まさに高圧的な社長そのものだった。

西村絵里は口元を引きつらせた。男女二人きりで温泉に入るなんて、良くない状況だ……

「黒田真一、私は仕事に戻らなきゃ。もうデザイン案は手に入れたから、もっとデザイン画を描かないと」

黒田真一は目を細め、目の前の西村絵里を面白そうに見つめた。特に彼女が自分を狼から身を守るかのように警戒している様子が、より一層興味深かった。

黒田真一はそのまま腰を曲げ、西村絵里を抱き上げると、露天風呂へと歩き出した。

「私と温泉に入るのも仕事の一環だ……今帰るなら、絵里、無断欠勤とみなすよ」

「ちなみに、無断欠勤の場合は、三日分の給料を差し引く」

西村絵里:「……」

自分の月給はそれほど多くないのに、ボーナスを含めても、黒田真一にこんなことを言われると、本当に給料がなくなってしまいそうだと西村絵里は感じた。

西村絵里は口元を引きつらせ、思わず言った。「社長、いつも給料カットでプレッシャーをかけるのはやめてもらえませんか」

「ボーナスカットはどうだ?」

西村絵里:「……」

くそっ、最低だ、人でなし、獣、ろくでもない。

この社長は本当に意地悪で、もう我慢できない。

……

最初は単なるゴルフ場程度だと思っていたが、西村絵里はここが露天風呂まで開発されていることに驚いた。

廊下を通り抜けると、周囲に咲き誇る温室の桜が目に入り、その美しさは言葉にできないほどだった。

しかし西村絵里は景色を楽しむ余裕などなく、黒田真一の鉄の腕に抱かれ、まったく身動きが取れなかった。

「じっとしていろ」

西村絵里は耳元で響く黒田真一の低い声を聞き、小さな手を握りしめた。

「社長……」

「もう一言言ったら、給料を差し引くぞ」

西村絵里:「……」

西村絵里は何か言おうとしたが、黒田真一の言葉を聞いて急いで黙り込み、小さな手を握りしめた。

露天の温泉は、環境が清々しく優雅だった。

一歩足を踏み入れると、湯気が顔に当たってきた。